2016年10月8日土曜日

耳鼻科の力

私の家系は鼻が弱い。
そんなことは誰も言わないが、見渡してみれば明らかにそうなのだ。
そして自分もそうである。
小学5年の頃から花粉症で耳鼻科通いだったし、大学の時には鼻中隔湾曲症で鼻がつまりやすく、そもそも常日頃から鼻腔が荒れている人生なのである。そのためか、年に何度も風邪を引き込むし、逆に、たまたまマスクを常々装着している時期には、あまり風邪をひかなかったりする。

今年の夏の初めは、風邪を何度もひいていた。
立て続けに2、3回軽めの風邪をひいた。つまり50日間くらいずーっと風邪っぴきだったのだ。
それで、その風邪が治ったら・・・
鼻声が定着してしまっていた。

周囲の人間は、もう慣れて、私の声がこういうくぐもった声だと思いこんでいる。
しかし、久しぶりに会ったり電話で話したりする友人は、「また風邪?」と訊いてくれる。

「いやぁ、これこれしかじかで、森本レオみたいな声になっちゃったよ・・・」
「・・・ぜんぜん似てないけど」
というやり取りを、何度交わしただろうか。

この2ヶ月ほどは、左耳の奥にガサゴソと異音が聞こえるようになった。
いつもではない。隔日くらいで鳴る。
中耳炎に似ている。しかし、耳が痛いとか耳垂れがあるとかいうことはない。
鼻声のほうも、喉が痛いとか頭が痛いとか鼻水が出るとか、ぜんぜんそういうことはない。
つまり、実害ゼロ。ただ不快なだけの状態がずっと続いているのだった。

  *

そうはいっても・・・不快だ。
気になる。
それで今日の午前中、町の耳鼻科へいってきた。

この耳鼻科はいつも混んでいるが、今日はさほどでなかった。
ふだんはお爺ちゃん先生が、大量の患者を、まるで時計の針のように淡々と診療して治療して、数多くの看護師さんを使ってエンドレスにさばいていく。
余計な口はきかない。時には必要最低限の説明もしない。気難しそうな静かなお爺さん先生だ。
が、患者の話を無視したりはしないし、措置が的確なので、名医だと思う。
――薬を大量に出すという性格をのぞいては。

だが面白いことに、そのすぐ下にある小さな薬局にいる若手の薬剤師が、これまたまるで名医のようなのである。
上の耳鼻科でお爺さん先生が処方した大量の薬やステロイド剤などを、下の名“薬剤師”が一通り症状を聞いて、再判断してくれる。

「この薬の量は多すぎると思うので、こちらと、こちらだけにしておきましょうね」
「ステロイド剤は、気になるでしょうから、今回はやめておいてもよいでしょう」
「この薬は弱いので、これくらいなら大丈夫です」
「ジェネリックにしておきました(勝手に)」

小難しい処方箋でも懇切丁寧に、ある種情熱的に解説してくれる。
私どもは、その若き薬剤師を非常に信頼するに至った。あるときは感動さえ覚えて、妻とこんな話をしながら帰った。

「ああいう仕事人が、世の中をよくしていくんだよ。彼はただの町の薬剤師じゃないね。患者さんだけでなく、日本社会の医療そのものを治そうとしているんだ」

  *

他方、耳鼻科にも変化が訪れていた。
待合室の椅子の配置が変わっただけではなかった。
お爺ちゃんである院長先生の、イケメンの息子さんが診療の多くを引き継いだのだ。
世代交代は、そのすぐ近所の眼科でもタイミングを同じくしている。
面白いことに、2世はだいたい目を輝かせたイケメンで、やもすればナルシシズムも匂わせているのだが、彼らは現代医療の最先端技術を現場に持ち込むと同時に、「人対人」のやりとりを約束する挨拶のメッセージなどをウェブサイトや待合室のお知らせに展示する。

私はこういうのをみると、・・・つい信頼し、期待してしまう。
そして、ちゃんと正確な診療をしてくれると、また嬉しくなる。
――世の中は、やはり進化しているのだ!
と。医者ってスゴいな、素晴らしいな、と思う。

今日の耳鼻科の2世先生は、私と同年代だった。
さくさくと診療・治療をしてくれた。

そして、驚くべき展開が待っていた。
左耳の検査を、圧をかけたりして調べたあとだった。
部屋の端に置かれた細い施術ベッドに寝かされ、左耳を細かに先生は見てから、ピンセットを差し込んだ。
「たぶん、これが原因ですね」
直後に「お土産です」と、ティッシュに包まれて渡されたのは、なんと3cmほどの自分の髪の毛だったのだ。
私は驚きを隠せなかった。
外耳道の鼓膜のそばに、髪の毛がぐるぐる巻きで詰まるなどという珍事は、38年生きてきて初めてだった。
これがガサゴソ鼓膜に当たりながら、2ヶ月間もそこにあったのである。
毎日の綿棒は、取り払うどころか押し込める作用をしていたのだ。

帰ってそのお土産を見せながら話すと、妻も驚いて悲鳴をあげながら、
「きもちわるーい!」
と言った。
「俺本人が、いちばん気持ち悪かったよ」
「それはそうでしょうね。でも、虫とかもっと変なものが出てこなくてよかったじゃない」
「あのなあ。これ以上キモキャラにしないでくれ」

診察は初診だったこともあり3千円弱かかった。
処方箋は飲み薬14日分と点鼻薬1本。ジェネリック(後発)はなかったので、2千円以上かかった。
計約5千円の出費。
病院通いはカネがかかる。健康がいちばんだ。無駄金を使った。

ほんのちょっとだけ思ったのは、・・・耳に圧をかける特殊器具で調べる前の、診察台での簡単な診察の時点で、すでに詰まった髪の毛は見えていたんじゃないかな? ということだ。
鼓膜は入口から3cmという、簡単に見える場所に位置しているらしい。
まぁ、先生は、
(髪の毛が原因だな。でも何か他の原因があると困るから、念のため調べとこう)
と思ったかのかもしれないし、
(髪の毛が原因だけど、色々検査して、お金を稼ごう)
と思ったかもしれない。素人患者にそこのところは分からない。

けれど、医療というのはいずれにしても、やはりありがたいと思う。
残りの不快感も治るならば、むしろ安いとさえ思う。
健康が一番だ。



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